尾崎放哉の句

障子しめきつて淋しさをみたす
こんなよい月を一人で見て寝る
にくい顔思ひ出し石ころをける
雀がさわぐお堂で朝の粥腹(かゆばら)をへらして居る
犬よちぎれるほど尾をふつてくれる
雨の幾日がつづき雀と見ている
かぎ穴暮れて居るがちがちあはす
あるものみな着てしまひ風邪ひいている
がたぴし戸をあけておそい星空に出る
鳩に豆やる児が鳩にうづめらる
人を待つ小さな座敷で海が見える
何かつかまへた顔で児が藪から出て来た
雀のあたたかさを握るはなしてやる

うつろの心に眼が二つあいている
ころりと横になる今日が終つて居る

人の親切に泣かされ今夜から一人で寝る。

咳をしても一人
いつしかついて来た犬と浜辺に居る
とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた
ビクともしない大松一本と残暑にはいる
障子あけて置く海も暮れ切る
足のうら洗へば白くなる
自分をなくしてしまつて探して居る

竹籔に夕陽吹きつけて居る
入れものが無い両手で受ける
雀が背のびして覗く俺だよ
月夜の葦が折れとる
墓のうらに廻る
あすは元日が来る仏とわたくし
夕空見てから夜食の箸とる
枯枝ほきほき折るによし
霜とけ鳥光る
お菓子のあき箱でおさい銭がたまつた
あついめしがたけた野茶屋
肉がやせてくる太い骨である
一つの湯呑を置いてむせている
白々あけて来る生きていた
これでもう外に動かないでも死なれる

バケツー杯の月光を汲み込んで置く
暗がり砂糖をなめたわが舌のよろこび
とんぼが羽ふせる大地の静かさふせる
児の笑顔を抱いて向けて見せる
口笛吹かるゝ四十男妻なし
呼び返して見たが話しも無い
ゆっくり歩いても燈台に来てしまった
水平線をはなれ切った白雲
色々思はるる蚊帳のなか虫等と居る
店の灯が美くしくてしゃぼん買ひにはいる
新らしい釘を打って夏帽をかける
まっくらなわが庵の中に吸はれる
庭をはいてしまってから海を見ている
飽く迄満月をむさぼり風邪をひきけり
さあ今日はどこへ行って遊ばう雀等の朝
盆休み雨となりぬ島の小さい家々
島の土となりてお盆に参られて居る

尾崎放哉のプロフィール・作品集
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