『ポスト・ヒューマン誕生』を読む

p378

【未来派のバクテリアの友 紀元前20億年】

もう一度、将来についての君の考えを聞かせてくれないか?

【未来派のバクテリア 紀元前20億年】

そうだねえ、バクテリアはひとまとまりになって社会を作っていると思う。
単細胞のバクテリアの集まりが、大幅に能力を増強された、複雑で巨大な単独有機体のように作用するんだ。

【未来派のバクテリアの友】

なんで、また、そんなことを?

【未来派のバクテリア】

仲間のダプトバクターのなかには、すでに他の大型バクテリアの中に入り込んで、ちょっとしたコンビを組んでいるものがいる。
それぞれの細胞が自分の機能を特化できるよう、我々の細胞仲間がひとつにまとまるのは必然なんだ。
だが今のところは、何でも自分でこなさなければならない。食物を見つけ、消化し、副生物を排出して、といった具合に。

【未来派のバクテリアの友】

それで、どうなるの?

【未来派のバクテリア】

全ての細胞が、君と僕がやっているような、ただの化学勾配による交換を超越して、お互いにコミュニケートする方法を考え出すんだ。

【未来派のバクテリアの友】

ふうん。将来、10兆もの細胞が巨大集合体になるくだりを、もう一度聞かせてくれよ。

【未来派のバクテリア】

僕のモデルによると、あと20億年くらい経てば、10兆の細胞でできた巨大社会が単独の有機体を構成する。
そのうち、極めて複雑なパターンで、互いにコミュニケートできる特殊な細胞も何百億とあるんだ。

(中略)

【未来派のバクテリア】

こういう風に考えてみよう。
このスーパー細胞の社会は、自分たちの組織が理解できるくらい複雑だ。
自分の設計を、より良いものへ、より速いものへ改善できる。
そして、周囲の世界をイメージ通りに再形成する。

【未来派のバクテリアの友】

ちょっと待った。それじゃ、いまのバクテリア社会は無くなる、ってことみたいだが…

(中略)

【未来派のバクテリア】

大きな一歩を踏み出すことになる。
それがバクテリアとしての僕たちの運命だ。
それに、僕たちのように、ふらふら漂う小型バクテリアも、まだ居るだろう。

テクノロジーを創造する種へと進化するのはバクテリアの宿命だった。
今度は、巨大な知能を持つ特異点へと進化するのが私たちの運命なんだ。

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p.521

進化の流れは、複雑性、優雅さ、知識、知性、美、創造性、それに、愛といった微妙な属性、その全てを一層深める方向に進んでいく。ありとあらゆる一神教の伝統において、神はその全てを有し、しかもいっさいが無限である -- 無限の知識、無限の知性、無限の美、無限の創造性、無限の愛をもつ -- と説かれてきた。もちろん、加速しながら進んでいく進化でさえ、無限のレベルに達することはとうていできない。しかし、指数関数的に急激な進歩をとげながら、進化は確実にその方向へ進んでいる。進化は、神のような極致に達することはできないとしても、神の概念に向かって厳然と進んでいるのだ。したがって、人間の思考をその生物としての制約から解放することは、本質的にスピリチュアルな事業であるとも言える。

人間は、インストールされた物語に影響されたまま人生を過ごす動物だ。
しかも、すでに取得した物語に親和的な物語ばかりを摂取したがったりする。
ポスト・ヒューマン誕生という物語に、拒否感を感じるか、親和感を感じるか、その違いは自分の中のどんな既存の物語が原因になっているのか。
人間の幸不幸は、テクノロジーに関わらず、その者が取り込んだ物語しだいだ。

—–

『ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき』

『ポスト・ヒューマン誕生』、不老不死はすぐそこに!?:日経ビジネスオンライン

レイ・カーツワイルの未来予測が凄まじい件 – 誰が得するんだよこの書評

レイ・カーツワイル『ポスト・ヒューマン誕生』の凄い未来予測 | こどものもうそうblog

“人類が石の道具や火、車輪などの技術を生みだすまでは、さらに数万年を要しただけです。16世紀に誕生した印刷技術は普及するのには百年ほどしかかかりませんでしたし、現代の携帯電話やミュージックプレイヤーは数年単位で普及しています”P14
“かつてのコンピュータは、大きな会議室ほどの大きさがありましたが、今ではわたしたちのポケットに入ります。それが衣服のなかに組みこまれるのは、もうすぐのことです。そして、より小さくなり、パワーを増したコンピュータは、次にわたしたちの体内に入ってきます”P49
“人間はみな非常に似た構造の脳をもっていて、すべての人類における遺伝学的な多様性は、ヒヒの一群の多様性よりも少ないのです”P58
“2020年には1台のコンピュータがひとりの人間の知性を凌駕する。そして、2045年には人間の知能の10億倍の能力をもった人口知能が登場し、人類とテクノロジーの関係が「特異点(人間の能力が根底から覆り変容するとき)」に達するという”P64

指数関数的成長理論

数億年前の生命の起源から、人間と機械が融合をはじめる数十年後の「特異点」をへて、究極的には「宇宙が覚醒する」という壮大なシナリオは、夢想と紙一重である。

ポスト・ヒューマン誕生というテクノロジー礼賛の物語 [科学に佇む心と身体]

◆ 非常に刺激的な未来予測, 2007/3/6

技術や知識は指数関数的に増大するという特性から未来技術は世の中の予想を越えて急速に進むとし、多くの読者が生きているうちにナノテクノロジーとAI技術が結びついた新しい世界を目撃するという。その予測は宇宙全体に知能が広がっていくという少々突拍子もないところまで進むが、予測には説得力があり、飽きさせない。

予測の内容は本書を読んでもらうことにして、非常に気に入った着眼点について述べたい。人間はしばしば遠い未来の予測を間違えるという。それは人間の未来予測が線形的(2倍、3倍、4倍・・・)なのに対して技術が指数関数的(2倍、4倍、8倍・・・)と進むので、実際には予測をはるかに越えて技術のほうが進むという。これは、まあ、いい。

はっとしたのは、同じように近い未来の予測も間違えるという指摘だ。なぜなら、近い未来では技術の進み具合が指数関数的に遅いからだ(1/2倍、1/4倍、1/8倍・・・)。したがって近い未来では逆に人間の期待の方が実際の技術進歩を上回ってしまう。これがときとしてバブルが発生する原因であり、また遠い未来を予測するときに間違える原因にもなっているというのは非常に鋭い。

p35
この事象のあと何が来るのだろうか?
人間の知性を超えたものが進歩を導くのなら、その速度は格段に速くなる。
そのうえ、その進歩のなかに、さらに知能の高い存在が生み出される可能性だってないわけではない。
それも、もっと短い期間のうちに。
これとピッタリ重なり合う事例が、過去の進化の中にある。
動物には、問題に適応し、創意工夫をする能力がある。
しかし、たいていは自然淘汰の進み方の方が速い。
言うなれば、自然淘汰は世界のシミュレーションそのものであり、自然界の進化スピードは自然淘汰のスピードを超えることができない。
一方、人間には、世界を内面化して、頭の中で「こうなったら、どうなるだろう?」と考える能力がある。
つまり、自然淘汰よりも何千倍も速く、沢山の問題を解くことができる。
シミュレーションを更に高速に実行する手段を作り上げた人間は、人間と下等動物が全く違うのと同様に、われわれの過去とは根本的に異なる時代へと突入しつつある。

「ヴァーナ・ヴィンジ ― テクノロジーの特異点(1993)」