「科学的な宗教」という夢
現代においては、多くの瞑想宗教が、自らの教義(理論と実践技法)の「合理性/科学性/客観性/検証可能性」を主張します。
曰く、「ウチの教義は科学的であり、知性的であり、つまり妄信的でなく、実証可能な客観性も持っている」云々…
しかし、「科学的」と「宗教的(ここでは、“非科学的”の意)」の線引きは何によって為されるのでしょうか。
科学と宗教の線引き問題
いわゆる線引き問題―科学と非科学、ないし疑似科学の間の線をどこに引くかという問題は、科学哲学の中心的な関心の一つであり続けてきました。
そして現在では、線引き問題という問題設定そのものの妥当性が問われるところまできています。
体験主義の危険と、教義への理論的自閉
多面的・批判的に自身の認識・体験を吟味・検討する能力は、特に瞑想宗教に関わる場合、必要なものです。
以下の資料に目を通すことによって、その基礎訓練が幾らかでも為されるかも知れません。
宗教や瞑想に関心を持ち、実際に実践-行に取り組もうとされている人には、まずお勧めします。
怪しげな体験主義― 私はそれを体験した! 故に、それは真実・事実であるに違いない― や、教義への理論的自閉― うちの教義はスゴイ! それで世界のすべて(すべての現象)を説明することができる― などにはまり込むことのないよう、予防薬として。
以下に紹介する、主に「懐疑主義的な」本や情報のすべてが正しい、と言いたい訳ではありません。
ただ、両陣営の言い分に耳を傾けて、その上で自分はどう考えるか、その「考える力」「論理的・批判的な思考力」を養うための練習問題としてオススメしたいのです。
それは、裁判で言えば、犯人側(弁護側)の言い分だけを聞いて答えを出すのではなく、検察側の言い分も聞いて、その上で、自分なりの判断を下す、と云う、当たり前なことなのですが、瞑想宗教の世界では、それが充分になされていないように思えるからです。
「精神世界」とか「スピリチュアル系」とか「瞑想・修行系」とか言われる、この世界は、とんでもない危険な考え方や誤謬や人物や体験に満ち満ちた場所なので、自らを守るための「まともな(できる限り、客観的な材料・情報を収集する)情報収集能力と、(その情報を使って)冷静な批判的思考・判断をする能力」を訓練しておかないと、気がついたときには「いい食い物」にされ、お金や時間を食い尽くされるだけでなく、人生そのものを食い物にされ、食い尽くされた後には、ポイと捨てられて終わり、となってしまいます。
宗教とか瞑想とかに興味があり、これから取り組んでみようと思われているなら、まず最初に読むべきは、この手の本だと私は考えます。
また、様々な不思議現象(宗教話)に関するケース・スタディも必要ですが、それと平行して、人間がはまりやすい誤謬に関する原理的な分析・知識―そもそも、なぜ人間は、無いものを見たり、あるものが見えなかったり、関連性が無いものに関連性を見い出したりしまうのか? と云う問い―も必要だと思います。
ケーススタディ → 事例研究(case study) 具体的な問題を設定することにより、一般性のある理論やモデルを実践に応用したり、あるいは逆に理論やモデルといった一般性を探求する学問、研究、方法のこと。具体的であるがために、実践的である。
以下にあげたものは一つの参考でしかありません。間違っている情報も含まれているかも知れません。
あとは、自身の眼と判断力を使って、更に信頼できる情報を探し出し、自分なりの暫定的結論に至って頂ければと思います。
1. 検証主義
これらのサイトのリンク集から多くの情報を得ることができます。
以下、まずオススメできる本です。
『なぜ疑似科学を信じるのか: 思い込みが生みだすニセの科学』
『超常現象をなぜ信じるのか―思いこみを生む「体験」のあやうさ』
「ドーキンス、全力投球」と云った感じの力作です。分厚い本ですが、中だるみも無く、一気に読めます。
『生と死の境界―「臨死体験」を科学する』 スーザン・ブラックモア
『輪廻体験ー神話の検証』
『代替医療のトリック』 サイモン・シン
『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』
新書ですが、かなり充実した内容です。
「食べもの情報」ウソ・ホント―氾濫する情報を正しく読み取る (ブルーバックス)
『シリーズ・地球と人間の環境を考える』
のなかの、『水と健康―狼少年にご用心』
2. 反証主義
『ポパー 批判的合理主義』 小河原誠
3. パラダイム論・ホーリズム
『科学の解釈学』 野家啓一
『パラダイムとは何か クーンの科学史革命』(講談社学術文庫)
『科学論序説』 H.I.ブラウン著
入門的な教科書として分かりやすいです。
『はじめての分析哲学』 大庭健著
分析哲学に関する最良の入門書の一つだと思います。
分析哲学が、そもそも「何を」問題としているのかの大まかな見当がつきます。