覚醒への後押し

「弟子であり本の著者であるジャスティン・オブライエンは、スワミのアメリカでの普及活動を熱心に手伝っていたのですが、あるとき、「私は覚醒したい。そのためにはどんなことでもする覚悟がある」と師に告げました。
 するとまもなく、スワミが主催するヨーガ普及のための組織の評議会に呼び出され、彼の持っている博士号や学位は詐称ではないかと、あらぬ疑いをかけられ、組織の運営業務を一方的にやめさせられ、さらに彼が教授職を勤める大学も彼の経歴に疑惑を抱き、大きなスキャンダルにさらされることになりました。
『僕には名前も、地位も、認識番号もない。築いてきた家はみな取り壊された-学位、地位、名声、オフィス、監督権、職歴。訴えるべきところもない。妻を守ってやることさえできずにいる』
 こうして、プライドも、人を教えることに生き甲斐を感じていた教授職も、さらに、世界は正義が貫いているという信念も、すべてずたずたに打ち壊されて苦悩のどん底に突き落とされる数ヶ月間を経験したというのです。」

「ある日、師(スワミ・ラーマの師)と川べりを歩いていた時のこと、ひとりの男が崇敬を表し言葉をかけてきた。そして覚醒に近づくためにできることは何かと質問した。『三か月嘘をつかないこと』師はそう答えた。いいかい、真実を語れでなく、ただ嘘をつくなと言ったんだ。男は家に戻り、その行を始めた。
 彼は政府の仕事をしていて、そこではある収賄行為がなされていた。彼もそのことを知ってはいたが、関与はしていなかった。翌週オフィスに不意打ちの捜査が入り、全員尋問された。捜査官から収賄について聞かれた時、男は師の言葉を思い出し、洗いざらい話した。捜査官がオフィスの他の昔たちに尋ねると、彼らはその男こそ首謀者だといって罪をなすりつけた。男は起訴された。
 妻は男が捜査官に話したことに激怒した。ただ口をつぐんでいればこんなことにはならなかったのに、そういって責め立てた。男は聖者と川べりで会った時のことを話して聞かせた。『結構ですわ』妻は言った。『そんなに私に恥をかかせたいなら、その聖なるお方のところに行ってください』彼女は離婚を申し入れた。
 友人たちは彼を愚か者だと言ってその窮状を笑った。子どもたちでさえ、自分より妻と暮らすことを選んだ。妻は預金を全部引きだし、夫を拘置所に残したまま去っていった。彼には弁護士を雇う金さえなかった。
 男は自分のおかれている状況を見て、嘘をつかずにいることで、このあとどんなことが起こるのだろうと思った。
 判事の前に連れだされ、彼の側の言い分を尋問された。男はこの『嘘をつかない』という一連のできごとがいかにして始まったのか説明しなければ、という強い衝動にかられた。男の話に息をのんだ判事は、休廷を申しわたし彼を執務室に呼びだした。そこで二人のサドゥ(行者)についてもっと詳しく話すよううながした。それを聞くうち、判事はこの男が出会ったのが自分のグルだったと悟った。それをきっかけに、証拠書類が再度詳しく検討され、いくつか矛盾点が発見された。起訴は取りさげられた。
 男は晴れて自由の身となったが、ひとりきりだった。他にどんなことが起こるのだろうと思った。行の三か月が終わる頃、200万ルピー(およそ2000万円)の遺産を相続したという電報が届いた。するとすかさず妻が連絡をよこし、すべては自分の誤解だったと認めてきた。しかし男はもとの生活に戻るつもりはないと丁重に伝えた。あまりにもたくさんのことが起こったその三か月、男は嘘をつかずに生きることが何をもたらしていくか見たいと思ったんだ」
 このように、覚醒を求めたときには、その人が大切にしているものを、ことごとく奪い去られてしまうようなことが起きたりするようです。名声も、仕事も、お金も、家族さえも、奪われてしまうような。  『ヒマラヤ聖者の教え』から
心の治癒と魂の覚醒