人間と宇宙

われわれ人間は宇宙の中の小さな一点にすぎないのにもかかわらず、思想を恵まれている者として、逆にその宏大無辺な宇宙を自己の思想の中に包み入れることができるし、また包み入れずにはおれない。

それは「考える」能力を賦与された人間の深い悩みであると共に、また大きな喜びでもある。

この意味において、すべての人は、自覚的に生きようとする限り、一人残らず哲学者であるということができる。

時間

われわれの運命は非現実的であるがゆえに恐ろしいのではない。
逆行できず、鉄のように仮借ないがゆえに恐ろしいのだ。

時間はわたしを作り上げている実体である。

時間はわたしを押し流す川である。しかし、わたしはその川である。

それはわたしを引き裂く虎である。しかし、わたしはその虎である。

それはわたしを焼き尽くす火である。しかし、わたしはその火である。

世界は不幸にして現実である。わたしは不幸にしてボルヘスである。

『時間に関する新たな反駁』 J・L・ボルへス