不死性

たとえば、ある人が自分の敵を愛したとすると、その時キリストの不死性がよみがえってきます。
その瞬間、その人はキリストになるのです。

われわれがダンテ、あるいはシェイクスピアの詩を読み返したとします。
その時、われわれは何らかのかたちで、その詩を創造した瞬間のシェイクスピア、あるいはダンテになります。

ひとことで言えば、不死性は他人の記憶のなか、あるいは我々の残した作品のなかに生き続けることなのです。

大切なのは不死であることです。
不死になるというのは、成し遂げられた仕事のなかで、他者の記憶に残された思い出のなかで達成されるものなのです。

『語るボルヘス― 書物・不死性・時間』より