建設的・発展的な話し合い・意思疎通の為に

特に、長く、深い関わりをする相手―夫婦、恋人、家族同士の間での、深刻で長期に渡る諍い・言い争い・口論、根の深い不仲・嫌い合い・憎しみ合いなどに落ち入ってしまい、当事者の間では、それをどうにも解消できなくなってしまう状況は、私たちの生活の中で、また周りの人間関係を見ていても、多くあることです。
それは、人間関係の中でも「最も難しい人間関係」と言えるでしょう。

そのような、関わりが深く、長く、お互いに相手の中身・人間性を、誰よりも良く知っているが故に難しい人間関係において、いかに感情的・攻撃的・自己防衛的で、ただただ消耗的な権力闘争になってしまうことなく、建設的に会話ができ、話し合え、互いの共通の問題を、運命共同体として解決していくことができるか。

全体の流れとして、

1. 「感情の自己認識(自己理解) 自分の感情の正体を正確に知る、理解する」こと、

そして、

2. その「自分の真実の感情を相手に、最適な形で伝える・話す」と云う構成になっています。

参考文献
『EQ こころの知能指数』 (講談社プラスアルファ文庫)

「EQ基本定義5項目(p.74)」、「1. 自分自身の情動を知る(情動の自己認識)」と「2. 感情を制御する(感情の客観視・対象化)」「4. 他人の感情を認識する(共感能力)」「5. 人間関係をうまく処理する(共感の上で、他人の感情をうまく受け取める)」

内観コースも、気づき系(ヴィパッサナー)コースも、共に、それぞれの仕方で、EQを上げるトレーニングをしていると言えるでしょう。


まず、「なぜ、夫婦、恋人、家族など、長く深いつき合いの人間同士の間での、建設的会話が難しいのか」について。
イメージ・感情的しこりの形成、蓄積、心への堆積について。

クリシュナムルティ 「イメージなき観察」


1. 感情の自己認識(自己理解)

感情のセルフ・モニタリング (特に)否定的感情の十全なる経験、充分に感じ尽くす。
嬉しい感情、悲しい感情、怒り、憎しみ、性欲…それが何であれ、自分が現に感じている、あらゆる感情を完全に感じ尽くす。味わい尽くす。

感情を行動化せずに、感情を感じる。
自分の感情との、つきあい方を学ぶ。
特に、否定的な、陰性の、道義的・倫理的に良いものとは思えない感情ほど、それはされて来ておらず、意識的な取り組みが必要となる。

クリシュナムルティ 「非難なき観察」


1-1. 感情の核・コアを捉える

表面的な感情(気持ち)の奥に隠されている「本当の」感情を感じる、本当の自分を理解する。

たとえば、「怒り」と思い込んでいたものが、実は「怯え」であったり、
がっくりと「落胆している」と感じていたものが、根は実は「怒り」であったりする。

自分の感じている感情の根源を探る。それは「欲望」なのか「嫌悪」なのか。

人間の基本的感情・欲求 「恐れ 怒り 悲しみ 喜び 興奮 性欲」

・ ヴィパッサナー瞑想、心の観察、ラベリングを使う。


1-2. コア・トランスフォーメーションを使う

自分の否定的な(とても良いものとは思えない)感情の正体を調べていく。
自分(その感情)が、本当に望んでいることは何なのか、と。

参考文献
『コア・トランスフォーメーション:癒しと自己変革のための10のステップ』


1-3. 感情の身体的認識

身体感覚として感情を捉える訓練―その感情は、身体感覚としては、どの部分に、どのような感覚として存在しているか、現れているか。

・ フォーカシングの手順を使う
フォーカシングの「名前のない原感覚(身体実感)をしっかり感じ、それに名前をつけ、それと共に居る」と云う手順を組み合わせる

参考文献
『やさしいフォーカシング―自分でできるこころの処方』
『マインドフルネスストレス低減法』

・ ヴィパッサナー瞑想の体の随観、ボディスキャンを使う。


1-4. 否定的感情の直接経験・そのものになる(そのものである、ことを知る、に目覚める)。

ガンガジ「感情を直接経験する」→ クリシュナムルティ「分離なき観察」


2. 自分の真実の感情を相手に伝える・話す

2-1. 顕微鏡的真実を語る

自分の「本当の」気持ちを、上手に相手に伝える技術。
その自分の感情を、相手の批判/自己正当化のニュアンスを混ぜずに、相手に正確に伝えること。
以下、『コンシャス・ラブ』p.171~183からの抜粋要約。

真実を語ることは、コミットしあう関係へのジャンプ台です。
ひとたび足を乗せれば、後はひとっ飛びで、スムーズな関係性の流れに乗ることができます。
もし真実を語らなければ、貴方と相手との関係は、いつまで経っても、ただのもつれ合いで、健全な関係にはたどり着けません。
私たちが真実を口にしない理由は色々ですが、結果は常に同じ、すなわち相互依存(肯定的であれ、否定的であれ)に行きつきます。

相手に嘘を言うときの理由づけを幾つかあげてみます。貴方の日常にも、思い当たるものがあるでしょうか。

・ 私が本当のことを言えば、彼は腹を立てるだろう。
・ 彼女は、どうせ本当のことを話したところで、僕を理解してはくれないのだから。
・ あまり長い間嘘をついてきたので、何が真実なのかが分からない。
・ 嘘をついて相手をだますことに快感を覚える。上手くごまかせることは面白い。

真実を隠すことは嘘の一種です。
真実を言わないでいると、結局、関係性が中心からそれた、宙ぶらりんなものになっていってしまいます。

「隠す、本心を明かすことを抑制する」と云う行為には、しばしば身体的現象が伴います。

あなたは、次に挙げるような症状や感覚、癖に覚えがないでしょうか。

・ のどが締めつけられるような感じ。
・ 気がつくと、歯を食いしばっている。
・ こめかみ付近の頭痛
・ 首筋の痛み
・ 息がつまる、息が浅くなる、ゆったりとした呼吸ができない。
・ 肩(肩甲骨の間や、前腕)に凝ったところがある。
・ 胃がむかむかする、胸やけがする。
・ 人と眼が合わせられない。

真実を語ることは、とても難しいことです。

意味深いレベルで真実を語るには、それだけ深いレベルで自分の本当の感情を知っておく必要があります。
「怖い」と言えないのは、確かに「怖い」と言えるほど自分の感情を知らないからかもしれません。
そういう人は、真実を意味をなして伝えられるよう、自分の心のなかの本当のこと(深いレベルでの真実)と、そうでないこと(表面的な現れ)とを、見分けられるようならなくてはなりません。

それでは、何が「真実」なのでしょう。

私たちの定義は、こうです。

「真実」とは、それについて絶対に議論の生じることのない事柄―たとえば、「あなたは馬鹿だ」と云う言い方、これは明らかに真実ではありません。
これは、議論しようと思えば幾らでも議論できる言い方です。

「私は、あなたに怒っている」、これはどうでしょう。
ずっと真実に近い。

「あなたの中に私の一面が見える。それを見るのが怖い」。これは、もっと真実に近いかも知れません。
あなたが怒っているとか怖がっているとかは、おそらくあなただけが知りうることなので、これについて議論することは難しいでしょう。
あなたが口にすることで議論が生じる気配が見えたなら、それは、もっと深いレベルで真実を語らなければならない、と云う信号だと思ってください。
身近な人との間で真実を語るとしたら、たいていの場合は、「感情」と「身体感覚」と「実際の行為」を明確に言い表す、と云うことになるでしょう。幾つか例を挙げましょう。

・ 私は怯えている。
・ 私は傷ついている。
・ あなたに何か言われると、肩が凝ってくる。
・ いま、胸に痛みがある。
・ あなたが他の女の人と話を話をしたとき、胸がむかむかした。今もしている。
・ 昨日、別れた前の妻と会って話をした。

あなたの申し立てに対して、「まあ、彼女と話なんかして欲しくなかったわ!」と云った反応が生じたなら、
それは、もっと深いレベルの真実を語れ、と云う合図だと理解してください。
「昨日、前の妻と話をしたことを後ろめたく思っているよ」、あるいは「今日、前の妻と話をしたことに、君が腹を立てるだろうと思うと、とても気が重い」など。
しかし、いずれにしても、相手の反応を心配する必要はありません。
あなたの責任は、「顕微鏡的真実」を、そのこと自体の為に語ることであって、相手を喜ばせたり、満足させたりすることが目的ではないのです。
相手の反応は、あなたがどこまで真実に近づいて来たかのフィードバックとして利用してください。
もう一度言いましょう。
あなたが顕微鏡的真実に近づけば近づくほど、議論を引き起こしたり、長引かせたりすることが少なくなります。

「真実」と「判断」とを、はっきりと、厳密に区別してください。

「判断」とは、

・ あなたなんて、ろくでもない、どうしようもない人ね。
・ おまえは、馬鹿か。
・ 今日のあなたは、あの子に厳しすぎるわ。
・ あなたが変わってくれさえしたら、私は元気になれるのに。

こうした申し立てには、どれも議論の余地があり、「真実」ではありません。
とにかく、絶対に議論ができない事柄が真実なのです。

また、「真実」と、真実を語ることに秘密の荷物のように隠されている「別の意図」とを区別できる注意深さを持つことも必要です。

「別の意図」とは、たとえば―

・ 自分の立場を正当化する―「今日はとても忙しかったから、頼まれていた仕事のことを忘れてしまった」
・ 責める―「もし、誰かが少しでも手伝ってくれていたら、こんなことにはならなかったのに」
・ 被害者となる―「いいわよ、お皿は私が洗っておくから」
・ 是認を求める―「私は、こうしたいんだけど、あなたはどう思う?」

「別の意図」が隠されていることが、非言語的に示されることも良くあります。
ため息をつく、伏し目がちになる、肩をすくめる、指先でトントンたたく、唇をすぼめる、などの仕草です。

あなたが何かを話しかけ、欲しい反応を得られなかったと感じたら、あなたのなかの隠れた意図を探して見てください。

ある人は、前の恋人と電話で話したことを、現在の恋人に言いそびれていました。
ほんの少し実務的なことで話しただけで、大したことではないと思っていたからです。
しかし、その晩、現在の恋人と一緒に居るときに、そのことが気になっている自分に気がつきました。
しばらく迷った後に、最終的に彼女は彼にそのことを打ち明けました。
案の定、彼は怒り出し、彼女が未だに別の男に恋心を持っていることを責めました。
彼女は言い訳けに懸命になり、権力闘争が始まりました。

相談に来た二人に、私たちは、「真実を語る方法」を教えました。
「投射」や「判断」「正当化」に陥ったときには、絶対に議論できない言い方になるまで掘り下げて語るように。
二人は、この基準を使って真実を話し始めました。たとえば―

・ もっと早く話してくれなかったことが悲しい。
・ あなたが去っていきそうで心配だ。
・ あなたの前では、私はとても弱い。こんなことはこれまでの人間関係ではなかった。だから、上手くいかなくなりそうでますます心配になる。
・ もし、本当のことを言ったら、あなたに突き飛ばされそうな気がする。本当のことを言って、父親に突き飛ばされたことがあるから。

こうした「語り」は、権力闘争に幕を下ろします。
こういう「会話の内容」が、深い関係性を作っていく材料となるのです。
二人の人間が、たがいに本当の自分を見せ合い、自分の感情に全面的に責任を持つ。
私たちは、何百組ものカップルが、ほんの十分間、このような種類の真実告白をした後で、破綻寸前のところから、関係性を立て直してゆくのを見てきました。
真実は、最初のうちは必ずしも心地良いものではありません。しかし、必ず、人の心を動かすのです。

「顕微鏡的真実」を語ることを覚えたとき、人は飛躍的な成長を遂げます。
それは、絶対的に、相手とか外界に関するものではなく、あなたの内面の真実を語っています。

・ 胸の上部に圧迫感がある。まるで棒が突き刺さっているようだ。
・ 頭のなかの「あら探し屋」が、こう言っているのが聞こえる。「お前はダメな奴だ」
・ 私の胸の上に、大きな重しが乗っているように感じる。

これらの「語り」はいずれも、ただ「あるがまま」の状態を報告しているだけだ、と云うことに注目してください。
「判断」や「批評」は、話し手自身のも、他の誰のも加わっていません。
こうした、単純で深い真実が語らせるとき、言葉が光を放つのです。

逆に、顕微鏡的真実でない語りの幾つかの例を見てみましょう。

・ あなたがそんな話をしたから、私は怖くなってしまった。
・ あなた、自分が恥ずかしいと思わないの?
・ 本当のことが聞きたい? いいわよ、言ってあげましょう。あなたみたいな自己中心的な人間に会うのは初めてよ!

これらの申し立ては、話し手が勇気を持って、もっと深い、もっと秘められた、個人的なレベルの自分に眼を開いたときに、顕微鏡的真実に変わっていきます。

・ 私たちが話を始めると、胸がむかむかしてくる。
(この言い方と、「あなたがそんな話をしたから、私は怖くなってしまった」と云う言い方に含まれる、直接的な因果関係との違いに注目してください。)

自分が、はっきりした因果関係を述べていることに気がついたら、できるだけ疑い深くなってください。
問題の原因が何か(誰か)を確信していると人は、投射に陥っている可能性が極めて高いのです。

真実を語ることは、あなたの中に、他の方法では得ることのできない、明るさとエネルギーに満ちた状態をもたらします。
真実を隠すこと(うそを持って生きること)は、自分のなかの最も深いところで、エネルギーを封鎖してしまいます。
真実を語ると、そういう閉じ込められていたエネルギーが解放されるのです。


2-2. 『compassionate communication skills』(『思いやりのある意思の伝え方』)プリントから。(一部修正)

具体的な伝え方の手順。

1. When I hear/see/know that you…

あなたが、○○と言ったのを聞いたとき、
     ○○をしていたのを見たとき、
     ○○をしたと知ったとき、

2. I feel…

私は、○○という気持ちになりました。
私は、○○と感じています。

※ 表面的な感情・気持ちではなく、その奥にある、気持ちの核心・本当の動機を探り、確実に捕らえてから語る。

3. Beacause I need/hope/believe in…

なぜなら、私は、○○(してもらうこと)を必要としている(を願っている、に価値を置いている)からです。

4. Now then, I would like/ask you to …

そこで、私は、あなたに、○○して欲しいのです(○○することを依頼します)。