道具論

道具(得物)を使っての身体/意識の開発・拡張について

棒(刀、木刀、竹尺、丈)と云う道具を使うこと固有の面白さ。

ヒトは、手と云う接続器官を使うことで、様々な道具(アタッチメント)を自分の身体(意識、イメージ)に取り込んで使えます。
つまり、「持つもの(道具)を変えるたびに、自分の身体そのものをグニョグニョと変形させることができる」と云うところに特徴がある生き物で、刀を持っての稽古とは、それをいかに上手く行うか、刀そのものを身体に取り込んで使えるか、「身体の拡張」の具体的訓練だと感じます。

逆に、自分の身体(末端部分)自体を、道具として使う。

書物は人間が創り出したさまざまな道具類の中でもっとも驚嘆すべきものです。

ほかの道具はいずれも人間の体の一部が拡大延長されたものでしかありません。

たとえば、望遠鏡や顕微鏡は人間の眼が拡大されたものですし、電話は声が、鋤や剣は腕が延長されたものです。

しかし、書物は記憶と想像力が拡大延長されたものだという意味で、性格を異にしています。

『語るボルヘス― 書物・不死性・時間ほか』