ブログ 『日々、刻々、流れるもの』

『大地の五億年』

久々に、面白い本に出会いました。
オススメです。

『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』 藤井 一至 (著)

河合隼雄賞受賞・異色の土研究者が語る土と人類の驚異の歴史。
土に残された多くの謎を掘り起こし、土と生き物の歩みを追った5億年のドキュメンタリー。

地球には最初、土がなかった。地球上に生き物が誕生し、遺体と岩石から土が生まれた。
現在のところ地球は生き物が確認されている唯一の惑星であり、ゆえに土は地球にしか存在しない。

ひたすらに土を食べて耕すミミズ、岩を食べるようになったキノコ、腐葉土を食べるカブトムシの幼虫……。
土は植物や昆虫の躍進を支えるとともに相互に影響し合い、さらに恐竜の消長や人類の繁栄に場所を貸してきた。

身近なはずの「土」のことを、私たちはどれほど知っているだろうか。
土の研究者である著者がスコップ片手に世界を飛び回り、土に残された多くの謎を掘り起こしていく。
土と生き物たちの歩みを追った5億年の、そして未来へ向けたドキュメンタリー。

『「地球のからくり」に挑む』 大河内 直彦(著)に少し似ています。

『いのちをいただく』より

牛を殺すとき、牛と目が合う。
そのたびに坂本さんは「いつかこの仕事をやめよう」と思っていた。

ある日の夕方、牛を荷台に乗せた一台のトラックがやってきた。
「明日の牛か…」と坂本さんは思った。
しかし、いつまで経っても荷台から牛が降りてこない。
不思議に思って覗いてみると、10歳くらいの女の子が、牛のお腹をさすりながら何か話し掛けている。
その声が聞こえてきた。
「みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃん、ごめんねぇ……」

坂本さんは思った、(見なきゃよかった)
女の子のおじいちゃんが坂本さんに頭を下げた。
「みいちゃんはこの子と一緒に育てました。
だけん、ずっとうちに置いとくつもりでした。
ばってん、みいちゃんば売らんと、お正月が来んとです。
明日はよろしくお願いします…」

(もうできん。もうこの仕事はやめよう)
と思った坂本さん、明日の仕事を休むことにした。
家に帰ってから、そのことを小学生の息子のしのぶ君に話した。
しのぶ君はじっと聞いていた。

一緒にお風呂に入ったとき、しのぶ君は父親に言った。
「やっぱりお父さんがしてやってよ。
心の無か人がしたら牛が苦しむけん」
しかし、坂本さんは休むと決めていた。

翌日、学校に行く前に、しのぶ君はもう一度言った。
「お父さん、今日は行かなんよ!(行かないといけないよ)」
坂本さんの心が揺れた。そしてしぶしぶ仕事場へと車を走らせた。

牛舎に入った。坂本さんを見ると、他の牛と同じようにみいちゃんも角を下げて威嚇するポーズをとった。

「みいちゃん、ごめんよう。 みいちゃんが肉にならんとみんなが困るけん。 ごめんよう」と言うと、みいちゃんは坂本さんに首をこすりつけてきた。

殺すとき、動いて急所をはずすと牛は苦しむ。
坂本さんが、「じっとしとけよ、じっとしとけよ」と言うと、みいちゃんは動かなくなった。
次の瞬間、みいちゃんの目から大きな涙がこぼれ落ちた。

牛の涙を坂本さんは初めて見た。

絵本 いのちをいただく みいちゃんがお肉になる日

ノイラートの船

“We are like sailors who on the open sea must reconstruct their ship but are never able to start afresh from the bottom. Where a beam is taken away a new one must at once be put there, and for this the rest of the ship is used as support. In this way, by using the old beams and driftwood the ship can be shaped entirely anew, but only by gradual reconstruction.

われわれは、乗船中の船を大海原で改修しなければならない船乗りのようなものである。海の上で一から組み立て直すことはできず、梁を外したら間髪入れず新しい梁を付けねばならないし、そのためには船体の残りの部分を支保に利用するしかない。そういう具合に、古い梁や流木を使って船体を新しく作り変えることはできるものの、再構成は徐々にしかおこなえないのだ。

“Word and Object”(『ことばと対象』)”

オルテガ『大衆の反逆』より

「重要なのは、いつも同じ間違いを犯さないことを可能にしてくれる記憶、つまり間違いについての記憶なのだ。

人間の真の宝は、間違いについての記憶、何千年もの間、一滴一滴上澄みを醸成してきた長い生の体験にある。」